Antonio ATIENZA-MARQUEZ  IAS招聘助教(先進化学エネルギー研究センター グリーン水素研究ラボ)

研究者プロフィール

・氏名:Antonio ATIENZA-MARQUEZ
・先端科学高等研究院での所属と役職・役割:先進化学エネルギー研究センター グリーン水素研究ラボ IAS招聘助教
・主な研究分野:水素技術、再生可能エネルギー、ポリジェネレーション

Antonio ATIENZA-MARQUEZ IAS招聘助教

 Antonio ATIENZA-MARQUEZ IAS招聘助教は、2020年にスペインのルビーラ・イ・ビルジーリ大学で博士号を取得後、マラガ大学で約1年間ポスドク研究員として活動し、2022年7月に横浜国立大学先端科学高等研究院(以下「IAS」という)先進化学エネルギー研究センターグリーン水素研究ラボの特任教員(助教)として着任しました。Antonio ATIENZA-MARQUEZ IAS招聘助教は、修士課程からルビーラ・イ・ビルジーリ大学とマラガ大学で常勤の研究員として活動した、豊富な経験を積んだ研究者です。学部生時代、多くの大学生と同じく、企業に就職してサラリーマンとしての生活を追求していましたが、修士課程で深い興味を抱いた研究トピックに出会い、研究に魅力を感じ、新しい発見を追求する情熱が湧き上がり、博士課程への進学を決断しました。Antonio ATIENZA-MARQUEZ IAS招聘助教にとって、研究者の生活は挑戦に満ち、毎日新たな知識を得ることができる充実したものであり、非常に魅力的なものでした。数年にわたり、Antonio ATIENZA-MARQUEZ IAS招聘助教は再生可能エネルギーとポリジェネレーション構成を通じて建物のエネルギー効率を向上させる研究をしてきました。しかし、博士課程修了後、よりクリーンなエネルギーの開発が人類社会にとって喫緊の課題であるとの認識から、横浜国立大学にて、水素技術の研究に焦点を移しました。水素は、現在の代表的なエネルギーの一つである天然ガスと比較して、クリーンなエネルギーとして人類社会を発展させるために極めて有望なものです。
 Antonio ATIENZA-MARQUEZ IAS招聘助教は水素の研究が日本で進んでいることから横浜国立大学の研究室を選びました。研究を通じて、水素の貯蔵や輸送技術の改善を進めることを目指しています。
 Antonio ATIENZA-MARQUEZ IAS招聘助教は研究が新しい技術の開発、エネルギーシステムの効率向上、安全で持続可能なエネルギー社会の確立において鍵となると信じており、自身の研究を通じて、持続可能な社会に向けたエネルギー転換を推進することに貢献したいと考えています。

質問:現在取り組んでいる研究について教えてください

 現在では、液体有機水素キャリア(LOHC)技術に焦点を当てた研究をしています。この技術は水素を有機液体に「吸収」させ、それを常温・常圧で輸送できるようにするものです。特に、トルエンの電気水素化技術に興味を持っています。これらの電気化学デバイスは、プロトン交換膜電解装置の一種で、生成物としてメチルシクロヘキサンと呼ばれる液体を生み出します。この液体は、既存の石油ベースのインフラによる長距離輸送が可能です。エンドユーザーでの利用方法については、加熱するだけで水素がメチルシクロヘキサンから放出される仕組みです。

質問:IASの研究環境と雰囲気についての感想を聞かせてください

 横浜国立大学では、光島教授や荒木教授らの著名な水素専門家が集結するチームに参加しています。これらのチームは国内の主要なエネルギー企業と協力し、常温・常圧での水素の大規模かつ長距離の輸送のための革新的な技術を開発してきました。最新の専門知識に触れることで、既存の知識をさらに深めることができるため、研究者のキャリアにおいて非常に有益です。また、通常は入手困難な研究資源と先進的な設備にも恵まれています。
 ラボのメンバーは私にとって友達のようであり、ミーティングは楽しく、ラボでの日常も非常に愉快なものです。私のデスクはラボのメインルームにあるため、彼らはよくその部屋を訪れます。誰かがドアを開けると、私は時折歌い始め、笑いを取ることがあります。彼らも私のジョークを受け入れてくれます。ラボでは忙しい合間に皆と冗談を言ったり歌ったりして、とても良い雰囲気で過ごしています。
 また、IASでは充実した研究支援体制が整備されています。研究を進めるための資源だけでなく、書類や事務手続きに関するサポートも充実しています。私が抱える質問や懸念に対して、IASスタッフ全員がいつも全力でサポートしてくれています。本当に感謝しています。

高等研究院棟前にて

質問:残りの日本生活について、特に期待していることは何ですか

 スペインに戻った後も、IASとの関係を続けたいため、残りの日本生活ではIASとのつながりを強化したいと考えています。直近では、スペイン大使館で開催される大学間の関係構築・強化に関する会議に出席する予定です。その会議では、日本の大学とスペインの大学との間におけるプロジェクトの推進方法などについて学びます。残りの1か月で、大学間の関係構築の方法や気をつけるべき点などについて情報を収集し、将来、私がスペインのマラガ大学の教員になった時に横浜国立大学とのつながりを築くためのヒントを得たいと考えています。
 また、日本で知り合った人とのつながりを大切にしていきたいと思います。実は、渡日前にSNSを通じて横浜国立大学の水泳チームのメンバーとつながりました。来日後、水泳チームに入り、週3回~4回程度、皆さんと水泳を楽しんできました。研究者の仕事には、論文の締め切りに追われることや、実験がうまくいかないなど、多くの不確定性が伴います。一旦仕事から離れて水泳をすることで、いつもリラックスすることができます。私にとって泳ぐことは、温泉に行くことと同じ効果があります。そのため、今後も水泳チームとのつながりを大切にしていくつもりです。また、私は国際色豊かなアパートに住んでおり、隣人は皆外国人です。残りの一か月では、彼らと晩ごはんを食べたり、ビールを飲みながら話し合ったりする時間も楽しんでいきたいと思います。
 日本での最も特別な思い出の一つは江ノ島で富士山の背景に夕日を見たことでした。帰国前にもう一度江ノ島に行き、ビールを飲みながら夕日を眺めたいです。その瞬間の記憶を脳裏に刻み、一生の宝物として大切にしていきたいです。

質問:今までの人生について、100点満点で自己評価するとしたら、何点だと思いますか

 日本での生活については、自信をもって100点満点の完璧なスコアを与えるでしょう。YNUでの時間は、研究面だけでなく個人面でも大きな進歩を遂げ、非常に有意義なものでした。研究面では、優秀な学者の指導のもとで新しい課題を開拓し、研究能力も向上させました。また、個人面では、世界中の人々と繋がることができ、多様な視点で物事を見る能力を身につけ、以前の自分に比べて大きく成長しました。初めての日本で体験したことや、様々な思い出を永遠に大切にしていきたいです。
 今までの人生について評価をすると、おそらく80点くらいでしょう。全体的には幸せといえますが、つらい瞬間もありました。例えば、先週は論文の締め切りに追われ、毎日深夜まで働かなければならず、大変でした。また、今までの人生では一つのことにこだわりすぎた時期もありました。それらは辛い時期でしたが、その経験を通じて、身近な人との関係を大切にする必要性に気づき、結果的に人生を新しい視点から見る機会をくれましたね。

質問:今後のキャリアや人生の目標について教えてください

 私は、エネルギー工学の教育と研究に生涯を捧げる覚悟です。今年の12月に横浜国立大学での任期が終了し、その後私はスペインのマラガ大学で教員として教育と研究の活動を継続します。マラガ大学に入職後は、横浜国立大学で得た知識と経験を生かし、社会に貢献できるプロジェクトを始める予定です。スペインだけでなく、日本や他の国々とも連携して、共同研究により人類社会の前進に寄与したいと考えています。これが私の研究における抱負です。
 日本との架け橋としての目標は、マラガ大学で自分の研究室を立ち上げた後、国際的な交換留学生を受け入れることです。また、日本の友人との関係を継続するために、彼らをスペインへ招待し、楽しい旅行になる様に案内をしてあげることも考えています。

質問:来日前の自分と比べて、今の自分にはどんな変化がありましたか?

 来日前の自分と比べて、今は自分に自信を持てるようになりました。来日前、新しい国で新しい研究トピックに取り組むことが、本当にできるかどうか心細かったですが、結果として、うまく進めることができています。スペインというコンフォートゾーンを離れていても、良い論文を発表することができ、また素晴らしい外国人の友達と交流することができたため、自分に誇りを感じています。日本での体験は、私の内面にポジティブな変革をもたらし、人生の見方を変えました。今の自分は、自信に満ちており、将来の生活と夢に対しても前向きな気持ちです。前向きな気持ちで将来を考えることができるのは、日本での豊富な経験のおかげだと感謝しています。