2026.06.05

2025年3月24日に横浜国立大学 先端科学高等研究院(IAS)と総合学術高等研究院(IMS)のシンポジウムを横浜シンポジアにて開催しました。
冒頭の梅原 出 横浜国立大学長・高等研究院長 による開会挨拶にて、”AI時代において「人間の尊厳」を保つことの重要性”が示されたのを皮切りに、経済産業省 イノベーション・環境局大学連携推進室 川上悟志室長(当日室長は国会対応の為、加治佐一晃室長補佐が講演)による「科学とビジネスの近接化」時代のイノベーション政策について」、また産業界からは旭化成株式会社デジタル共創本部データインテリジェンスセンター 誉田正宏センター長による「旭化成におけるAI活用の現状と今後」の2つの基調講演をいただきました。
高等研究院からの講演では、「AI × ○○」と題して、AI自体の研究開発はもとより、AIを自らの研究に活用する横浜国立大学の精鋭研究者5名が自らの言葉で、”未来を創るイノベーション”を発信しました。
二つ目のセッションは”革新と共創のための人工知能研究ユニット”の白川真一教授がファシリテーター役となり、多様な人たちが対話を通し学び合うIMSのユニークな取組み、「YNU Dialogue」を行いました。旭化成の譽田氏と4名の横浜国立大学の研究者に会場の参加者も交えての「AIを使いこなしても置き換えられない人間の可能性」は何か?を”問い”とした幅広い視点からの対話を行いました。
三つ目のセッションはIASとIMSの2つの高等研究院のセンター、ユニットに参加する研究者を代表する研究者がポスターセッションをおこないました。各ポスターではこれまでの研究成果を発表すると共に参加者との活発な意見交換が行われました。
※ 本記事内の所属及び役職は全てシンポジウム開催時点のものです
開会挨拶
開会挨拶に登壇した 梅原 出 横浜国立大学長・高等研究院長は、現代社会におけるAIの重要性を強調し、横浜国立大学がこの技術とどのように向き合い、未来を切り開いていくかという方向性を示すと共に、AI時代において「人間の尊厳」を保つことの重要性を念頭に置いた実りある議論が交わされることへの期待を述べ、開会宣言としました。

基調講演
経済産業省 イノベーション・環境局 大学連携推進室 川上 悟志室長(当日は同室 加治佐 一晃室長補佐が講演)よる「科学とビジネスの近接化」時代のイノベーション政策について」
本講演では基礎研究と事業化がこれまで以上に密接に結びつく時代を迎え、国主導の研究開発から多様な主体が参画するイノベーションエコシステムへの変化が起きていること、そして大学が有する研究シーズや人材と、企業が持つ資金や事業化ノウハウを循環させるオープンイノベーションが、相互の価値を生み出しつつ産業競争力の強化につながるカギとなる事への理解を深める貴重な機会となりました。

旭化成株式会社 デジタル共創本部 データインテリジェンスセンター 誉田正宏センター長による「旭化成におけるAI活用の現状と今後」
本講演では、旭化成が掲げる「人・データ・組織風土」の三本柱のもと、AIを活用した製造・研究開発現場密着型の実践的なデータサイエンス活用事例を紹介いただきました。特に、製造現場におけるプロセス変数の予測によるロス削減や、保全データの最適化、さらにはディープラーニングを用いた検査の自動化といった具体的な事例に加えて、生成AIを社内業務に安全かつ効率的に組み込むためのシステム活用や、「対話型データ分析エージェント」でデータ解析の高度化を進めるといった活動が具体的に示されました。そしてそれらを通し、「現場のドメイン知識」と「デジタル技術」をいかに融合させスケーラブルな価値を創出するか、地道な取り組みの積み重ねから導き出された、製造業のDXを加速させるためのヒントが詰まった講演でした。

高等研究院講演
若きYNU研究者たちが挑む「AI × ○○」の可能性
AI技術を積極的に取り込んだ共創研究に挑んでいる精鋭リーダーが自らの言葉で未来へのイノベーションを語りました。
• 白川真一 教授:革新と共創のための人工知能研究ユニット長
「革新と共創のための人工知能研究ユニットが拓く未来」
本講演では、AI導入のボトルネックとなる「試行錯誤のプロセス」を最適化する自動機械学習や進化計算における「ブラックボックス最適化」という技術的難題に対し、同ユニットが強みとする少ない試行回数で効率的に高精度な解を導き出す手法を、飛行機の形状設計や材料探索といった課題解決事例を通して紹介いただきました。 また、後半では「AI×〇〇」をテーマに、バイオアッセイの自動判定や、筆記データに基づく認知症の早期診断支援など、学内の異分野研究と連携した具体的な社会実装事例の紹介を通して、技術開発のみならず、研究者コミュニティとの共創を通じて、AIを実社会の様々な領域へ溶け込ませるための取り組みが語られました。専門家による革新的な技術と、分野を超えた連携の力で未来をどう変えていくのか。AI活用の新たなスタンダードを提示するセッションとなりました。

•吉岡克成 教授:情報・物理セキュリティ研究ユニット長
「AI×サイバーセキュリティの未来」
本講演では、ハニーポットを用いた攻撃観測に加え、インターネット上の膨大な情報を収集するOSINT(オープンソース・インテリジェンス)、人間による深い情報収集を行うHUMINT(ヒューマン・インテリジェンス)の三つの手法を紹介するとともに、重要施設におけるセキュリティ情報の露出状況把握や、匿名性の高いSNSにおけるサイバー犯罪の予兆検知において、AIが極めて重要な役割を果たす事例が紹介されました。特に、収集した膨大なデータを分析し、犯罪の隠語や文脈まで理解して脅威を特定するシステムや、AIエージェントによる自動調査の仕組みは今後のセキュリティ対策の鍵であり、いかにAIを適切に活用して対抗できるかがサイバーセキュリティの決め手になると語られました。

• 吉田龍二 准教授:台風科学技術研究センター 台風データサイエンスラボ長
「AI×台風データサイエンス」の未来
本講演では、既に欧米や中国の主要機関が物理モデルを凌駕するAI気象予測モデルを発表している現状に加え、従来の流体力学に基づく物理モデルが抱える計算性能の限界や、予測精度改善の鈍化といった課題とともに、AIは未来の話ではなく、現在の気象研究において不可欠な存在との認識が示されました。これを踏まえ、同センターでは企業との共同研究を通じ、説明可能AIを用いた台風の強度予測システムの開発や、スパコン「富岳」を活用した高解像度シミュレーションによる竜巻予測への挑戦といったAI技術を融合させた次世代の予測手法に取組んでいることを報告すると共に、AIと物理の両モデルを組み合わせたサロゲートモデル開発といった気象学の新たな形を模索していく重要性が強調されるセッションとなりました。

・島 圭介 教授:革新と共創のための人工知能研究ユニット 共同研究者
「現場で使えるAI理論とその実装を目指して」
本講演では、通信環境や計算資源が限られた「現場」で真に役立つ技術研究の成果と社会実装事例について報告がありました。従来のAIは大量のデータと潤沢な計算環境を必要としますが、ベイズ理論を応用することで少ないデータでの学習を可能にし、さらにビットシフトなどの単純な演算処理にすることでクラウドに頼らず現場のハードウェアでリアルタイムに学習・推論できる環境を構築できるようになる事例が回路を義手の中に組込む実装研究を通して進んでいます。また、建設現場のコンクリート材料の配合調整において、熟練技術者の評価をAIが短時間で代替し作業効率を大幅に向上させた事例は、現場の制約を逆手に取ることでAI活用の可能性を示し、社会実装を加速させるものとして興味深い事例となりました。

・井上史大 准教授:半導体・量子集積エレクトロニクス研究センター 副センター長
「AI×半導体チップレット」の未来
本講演では、AIの普及と進化がもたらす莫大な電力消費というボトルネックに対し、微細化の限界による省電力化の難しさと、半導体業界のNVIDIAやTSMCによる市場の寡占化がもたらす課題を指摘し、その解決策として期待される革新的な技術「チップレット」の可能性と、それに伴う技術的・ビジネス的な課題について掘り下げました。さらにクラウドAIの限界を補うエッジAIでは日本の勝ち筋を車載やフィジカルAI分野と捉え、技術・経営の両面から取り組む研究拠点の重要性について具体的な展望を熱く語りました。

YNU Dialogueセッション
「AIを使いこなしても置き換えられない人間の可能性」
■ダイアログパートナー
誉田正宏 様 :旭化成株式会社 デジタル共創本部 データインテリジェンスセンター センター長
吉岡克成 教授 : 情報・物理セキュリティ研究ユニット長
島 圭介 教授 :革新と共創のための人工知能研究ユニット 共同研究者 UNTRACKED株式会社 取締役CEO
吉田龍一 准教授:台風科学技術研究センター 台風データサイエンスラボ長
■ファシリテーター
白川真一 教授 :革新と共創のための人工知能研究ユニット長
このセッションは多様な人たちが対話を通し学び合うIMSのユニークな取組み、「YNU Dialogue」として、「AIと共生する未来」について会場の方も参加する形で語り合いました。AIはブラックボックスとして遠ざけるのではなく、その性質を深く理解し、知の統合を目指して「どう使いこなすか」を問い直すという刺激的なセッションとなりました。
《判断と責任》: セキュリティや気象予報、製造現場において、AIは膨大なデータ処理を得意とする一方、命や品質に関わる「最終判断」と「責任」は依然として人間が担うべきとの共通認識になりました。
《人間とAIの協調》: AIを単なる代替手段ではなく、人間の能力を拡張する「サポーター」や「ツール」として捉え、互いの得意分野を活かす「人間AI協調」の重要性が強調されました。
《現場の知恵(暗黙知)の継承》:熟練工の技術を言語化・数値化し、AIに学習させるにあたり、技術の裏側にある「原理原則」を理解する人間の介在が、AIの信頼性を担保する鍵となるとの議論がなされました。
《技術の社会実装》:超省電力なエッジAIの展開や、サイバーセキュリティ、さらには脳のセキュリティまで、AIが物理世界に浸透する中での新たな課題と可能性について活発な意見交換が行われました。



ポスターセッション(高等研究院の活動報告)
会場のレセプションスペースでは横浜国立大学先端科学高等研究院と総合学術高等研究院のセンター/ユニットおよびPI(主任研究員)によるポスターセッションを開催しました。これまでの研究活動や社会実装の成果やこれからの活動を発表すると共に、参加者との様々な意見交換が行われ、未来への期待を語る人々の熱気が会場を包みました。






