2024.12.23
2024年9月20日に横浜国立大学 先端科学高等研究院(IAS)と総合学術高等研究院(IMS)のシンポジウムを横浜開港記念会館(JACKの塔)で開催しました。
冒頭の梅原 出 横浜国立大学長・高等研究院長による開会挨拶にて半導体・量子集積エレクトロニクス研究センター(SQIE研究センター)の設立がエレクトロニクス、AI、半導体分野での研究に加え次世代人材育成も含めて横浜でイノベーションを興していく意思が示されたのを皮切りに、 EYストラテジー・コンサルタント社の山本直人氏による基調講演では、生成AIの進化とその影響について特に基盤モデルの重要性、企業における生成AIの応用、自動運転への応用をテーマにSLMの役割やオープンソースコミュニティへの貢献についても触れるなど、生成AIの本質に着目した技術の活用方法を深く考えることの重要性を語られました。
高等研究院からの講演では次世代半導体、量子技術研究およびAI研究の精鋭リーダー4名が自らの言葉で、未来を創るイノベーションを発信しました。
最後のセッションはSQIE研究センター長の真鍋誠司教授がファシリテーター役となり、多様な人たちが対話を通し学び合うIMSのユニークな取組み、「YNU Dialogue」を行いました。山本氏に加え、ベンチャー企業であるエイターリンク社の小舘直人氏にも参加頂き、6名の登壇者と会場の参加者も交えての「DeepTechエコシステムが機能するために必要なコト・モノは?」を「問い」とした幅広い視点からの対話を行いました。
※ 本記事内の所属及び役職は全てシンポジウム開催時点のものです
開会挨拶
開会挨拶に登壇した 梅原 出 横浜国立大学長・高等研究院長 は、今年4月に設立したSQIE研究センターの意義として、エレクトロニクスの強みを次世代に向けて発信していく思いと、イノベーションを起こすのは人間であり、半導体、量子、AIは人材育成が「次世代の成功」にかかっていることに触れて、開会宣言としました。
基調講演
山本 直人氏(EYストラテジー・コンサルタント社)「AI社会の新潮流かつてないゲームチェンジの時代において我々はどう構えるべきか」
山本直人氏は、非線形な成長戦略、将来ビジョン策定など「新しい価値、イノベーション創出」にこだわったコンサルティング活動やご自身による「自然言語処理」に関する特許を保有されるなど先進A I&データテクノロジ-を活かせるパートナーとして活動されています。
今回の講演では、生成AIの進化とその影響について特に基盤モデルの重要性、企業における生成AIの応用に加え、生成AIの本質に着目した自立・マルチエージェントとして幸せ創出への寄与といった技術の活用方法を深く考えることの重要性を期待を込めてご講演いただきました。
生成AIの進化が進む中、具体的な使用例として自動運転の制御や映像のテキスト化技術の紹介を通して、生成AIの本質は物事の解釈や掛け合わせにあるとし、技術の表層ではなく本質に着目することが重要であること、さらに現在のエネルギー消費が大きいLLM(ラージランゲージモデル)が、GAFAのような大きなリソースを持つ企業に制限されている世界から、SLM(スモールランゲージモデル)で質の高いデータを使い、次世代チップの研究で省電力化が進めば、ゲーム機レベルで動かせる小型化されたモデルがどこでも動作するような生成AIの新潮流が生まれる、として将来展望を示されました。 具体的な応用例として、AIが分散配置され自律的に連動することで自立・マルチエージェントとしてリアルタイムに体験欲求に合うアプリを自動生成したり、自立エージェントに個人のペルソナを持たせることで自分に合った提案をさせたりすることで幸せの創出に寄与できることがAIが受け入れられるために重要であると期待を込めたメッセージで講演を締めくくられました。
高等研究院講演
AI社会を担う次世代半導体・量子集積エレクトロニクスのイノベーションを語る
次世代半導体、量子技術研究およびAI研究の精鋭リーダーが自らの言葉で、ありたい未来へのイノベーションを語りました。
• 井上 史大准教授: SQI E研究センター 副センター長・半導体ヘテロ集積ラボ長
半導体業界の国際情勢と、特に半導体の後工程に焦点を当てたチップレット技術について、ベルギーのimecでの経験を共有しながらチップレット技術の核となるハイブリッド接合技術、産学官連携によるエコシステムの構築や、国家プロジェクトへの参画など、横浜国立大学の取り組みについて紹介しました。さらに半導体業界の人材不足問題における大学の役割の重要性についても言及しました。
•堀切 智之教授: SQI E研究センター 量子インターネットラボ長
量子インターネット(通信)の概要と開発状況について説明がありました。量子通信の特徴として、情報理論的に安全な量子暗号通信が期待されている一方で、量子の微弱な信号を長距離で送信するための量子中継技術の開発が重要課題という認識を共有するとともに、中国の人工衛星を使った量子通信実験や米国やスペインでもテストベッドの構築が進む中、日本では横浜国立大学発のベンチャー企業「LQUOM」が中心となって、光ファイバーネットワークを活用した量子通信の実証実験や産学官連携の「量子インターネットタスクフォース」が設立され、量子インターネットの実現に向けた取り組みと人材育成の活動が紹介されました。
• 白川 真一教授、島 圭介教授: 革新と共創のための人工知能研究ユニット
このユニットは独自の人工知能アルゴリズムや方法論を開発するとともに、他分野の研究者や企業と連携しながら様々な分野での社会実装を目的として活動しています。具体的には大量のデータを使うAI学習で必要な専門家による試行錯誤を自動化する研究や学習アルゴリズム自体に適切なモデル構造を決めさせる取り組み、さらには言語モデルの圧縮といった、自動機械学習、説明可能なAI、進化計算などの独自技術の開発を通して、サイバーセキュリティ、義手制御、感情推定、発達障害児の行動分析、生体信号解析などのサービス提供を教育現場や医療現場などの様々な分野へ展開している活動が紹介されました。
ポスター展示
会場のロビーでは参加者がIASやIMSの各センター、研究ユニットのポスターと個別の紹介資料を手に取る様子が見られました。また、会場では台風科学技術研究センターが主催する、台風科学技術 創出・社会実装コンソーシアム(TRCコンソーシアム)の紹介動画が流され、関心を集めていました。
YNU Dialogueセッション
「DEEPTECHエコシステムが興すゲームチェンジ!に必要なコト・モノは? 」
■ダイアログパートナー
山本 直人 :E Yストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
小舘 直人 :エイターリンク株式会社
堀切 智之教授 :SQIE研究センター 量子インターネットラボ長
安本 雅典教授 :SQIE研究センター 社会価値イノベーションラボ
井上 史大准教授:SQIE研究センター 副センター長・半導体ヘテロ集積ラボ長
白川 真一教授 :革新と共創のための人工知能研究ユニット 主任研究者
■ファシリテーター
真鍋 誠司教授 :SQ I E研究センター センター長
このセッションはSQ I E研究センターセンター長の真鍋誠司教授がファシリテーターとなり、多様な人たちが対話を通し学び合うIMSのユニークな取組み、「YNU Dialogue」として会場の方も参加する形で開催しました。基調講演の山本氏、高等研究院講演を行ったリーダーたちに加え、ベンチャー企業であるエイターリンク社から小舘氏にも登壇いただき、DEEPTECHエコシステムが興すゲームチェンジ!に必要なコト・モノは? 」を共通の「問い」として対話を行いました。会場からの積極的な質問や意見もあり、登壇者と共に自分たちの課題として「問い」と向き合う、有益な時間となりました。
閉会挨拶
閉会の挨拶に登壇した四方順司副学長(研究・情報担当)は、シンポジウム参加者への謝意ならびに、半導体量子集積エレクトロニクスセンター発足に当たっての学長のリーダーシップと文部科学省の支援へ言及するとともに、他大学、研究機関、自治体、産業界などの多様なステークホルダーの協力が重要であることを強調し呼びかけることで会を締め括る言葉としました。